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最近こんな質問が多いんですね・・・
昨今のコロナ渦の影響もあって、最近よくこんな質問を受けます。
これは簡単そうにみえて非常に悩ましい質問です。
ただ、YESかNOかと即答を求められたら、YESということになります。
もう少し付け加えると、債務超過状態などのひどい財務状況の会社であっても、”状況によっては”事業譲渡を実行することは可能ということです。
状況というのは、端折って一言でいってしまえば”事業を継続できる有力な買い手が見つかるかどうか”ということです。
あと、M&Aプロセス上のテクニカルな話をすると、会社ボロボロの状態で事業譲渡を実行する場合には、潜在的に法的リスクが存在します。
この法的リスクの見極めが、案件実行の可否に影響を与えることになります。
そこでここでは、債務超過状態での事業譲渡における法的リスクと当該リスクへの対応について整理してみましょう。
内容はちょっと堅苦しくなりますが、ご勘弁を (=^ェ^=)
3つの法的リスク
債務超過状態の会社が事業譲渡を行うと、次のようなリスクが高くなることから、通常のM&Aよりも慎重に実施する必要があります。
- 詐害行為リスク
- 否認権リスク
- 株主総会リスク
詐害行為リスク
事業譲渡における詐害行為リスクとは、売り手が債務超過の状態で事業譲渡を行った場合、「当該事業譲渡が不当に財産を減少させ、全ての債権者を害する行為(債権者が弁済を受けられない状況になった)と判断され」、「売り手の債権者から詐害行為取消権(注)を行使され」、「事業譲渡が無効とされたり、買い手に対して譲渡対価の追加支払いが要求される」リスクをいいます。
詐害行為取消権・・・債権者を害する債務者の行為(詐害行為)を、訴えによって取り消し、債務者の財産から逸出した物や権利を債務者の元に回復する権利です。
このように、売り手のみならず買い手にとっても多大な負担が生じるため、極めて慎重に事業譲渡を実行する必要があります。
否認リスク
事業譲渡における否認リスクとは、「事業譲渡後に売り手(債務者)が破産した場合において、破産管財人が否認権(注)を行使する」リスクをいいます。
この否認権が認められると、事業譲渡が取り消され破産財団へ財産が持戻されることになります。
否認権・・・破産直前に不当に財産を減らすような行為があったと判断する場合、破産管財人がその行為の取り消しを要求できる権利を指します。
したがって、売り手が事業譲渡を実施した後に破産することは非常にリスキーな判断といえます。
株主総会リスク
事業譲渡により売り手が倒産してしまうと、売り手の株主の保有株式が実質的に無価値になってしまうことから、当該株主が株主総会において事業譲渡に反対の意思を表明するというリスクです。
法的リスクを軽減するための方策
前述の法的リスクを抑えるためには、次のような手を打つことが効果的です。
譲渡対象事業を適正に評価する
そもそも債務超過状態における事業譲渡が詐害行為と見なされるのは、事業譲渡により売り手の債権者が自らの債権の回収が困難になったと判断するからです。
もし、事業が適正な価格で譲渡されるのであれば、売り手は十分な売却収入を得ることになります。
その場合、売り手の債権者にとって債権回収の可能性は事業譲渡の前後で変わらないはずであるため、詐害行為と見なされるリスクは小さくなります。
ただ、何をもって適正価格といえるかどうかについては争点となりえます。
そこで、公認会計士や税理士といった財務の専門家に事業価値算定を依頼し、その報告書に基づいて事業譲渡を行うことで、詐害行為と見なされるリスクを抑えることができるでしょう。
プレパッケージ型M&Aを選択する
破産手続であれば管財人が株主総会を開かずに事業譲渡ができます。
民事再生手続では、株主総会を開かずとも、裁判所の許可による事業譲渡が可能です。
会社更生手続でも、株主の同意なしに更生計画内での事業譲渡が可能です。
このような倒産手続内での事業譲渡であれば、詐害行為も否認もありません。
倒産手続の過程での事業譲渡の実施は、プレパッケージ型M&Aと一般的には呼ばれており、このスキームを活用することにより法的リスクを回避することができます。
(補足)表明保証違反リスクと当該リスクを軽減するための方策
あと、売り手が法的に留意しておくべき重要なポイントをもう一つ指摘しておきます。
それは、売り手の表明保証違反リスクです。
「表明保証」とは、「相手側に伝えた内容が全て事実である旨を保証する」ことをいいます。これは、事業譲渡契約書の表明保証条項として個別具体的に明記され、売り手・買い手それぞれが相手に対して責任を負うことになります。
売り手が債務超過の場合、売り手にとって不利な事実(例.実質債務超過である旨、簿外債務の存在)を隠したり、虚偽の情報を伝えるおそれが高くなります。
もしそのようなことが事業譲渡後に発覚してしまった場合、表明保証違反に該当し、買い手から事業譲渡契約の解除や損害賠償の請求を求められることになります。
したがって、売り手はこのようなリスクを最小限に抑えるべく、買い手に対し、正確な情報を適時適切に必要十分な情報を開示を行うことが必要です。
まとめ
以上、いかがでしたでしょうか。
会社がボロボロでも理屈の上ではM&Aを行うことは可能です。
ただ、それには上記したように法的リスクが高い場合が多いので、法律専門家などを交えながら、慎重にM&Aプロセスを進めるようにしましょう。
では、また!
「うちの会社、ほんとにひどい状況なんだけど、売却することって可能なんでしょうか?」