事業譲渡は売買取引の一つです。
なので、事業譲渡の実行に伴い、売り手と買い手それぞれに税金がかかることになります。
ということで、今回は事業譲渡にかかる税金について整理してみました。
M&Aはお金の問題が最重要事項と言ってもいいので、どれだけの税金がかかるかということはしっかりと理解しておく必要があります。
ということで、さっそく解説を始めていきましょう。
目次
事業譲渡に関係する税金の概要
事業譲渡に関係する税金の概要は以下のとおりとなります。
なお理解しやすいように、ここでは、取引の相手方である買い手にかかる税金についても記載しています。
税目 | 売り手 | 買い手 |
---|---|---|
法人税 | 譲渡益が発生した場合は課税される。譲渡損の場合は課税所得が減少する | ー |
消費税 | 課税資産に対して課税される | 課税資産に対して課税される |
消費税以外の公租公課(注1) | 譲渡日前日までの分が課税される | 譲渡日以降の分が課税される |
登録免許税 | ー | 譲渡対象資産に不動産や知的財産権が含まれている場合は課税される |
不動産取得税 | ー | 譲渡対象資産に不動産が含まれている場合は課税される |
印紙税(注2) | 事業譲渡契約書に課税される | 事業譲渡契約書に課税される |
(注1)固定資産税、都市計画税、償却資産税など
(注2)通常は、各1通ずつ双方が負担するが、当事者いずれかが全て負担する場合もある。
この中で重要なのは、上の二つ、法人税と消費税になります。
残りの税目(税金の種類)については、金額的影響が乏しいので、とりあえず上図を見て理解する程度で十分でしょう。
法人税
事業譲渡は、売り手から買い手に事業を時価で売却する取引です。
したがって、事業譲渡実行時において、売り手に譲渡損益(譲渡価額と譲渡する資産・負債の差額)が発生します。
ここで売り手に譲渡益が発生する場合は、その年度における他の損益と合算して法人税を支払う必要があります。
なお、次のような状況である場合、事業譲渡による譲渡益が圧縮されるため、法人税負担は少なくなります。
- 法人全体として赤字である場合
- 売り手に税務上の繰越欠損金が残存している場合
逆に譲渡損が生じる場合は、事業譲渡取引に対する法人税は生じません。
(参考)法人税の構成要素と実効税率
会社が事業を行うことで得た「税務上の利益の額」に対して課税される税金は、「法人税」、「地方法人税」、「法人住民税」、「法人事業税」の税目に分けられます。
そして、これらの合計額から算出される実質的な税負担率を「実効税率」といいます。
実効税率の計算では、会社の資本金が1億円以下かどうかによって税率が大きく異なります。
資本金の額 | 実効税率 |
---|---|
1億円以下 | 約34% |
1億円超 | 約30% |
消費税
課税資産に対する課税
事業譲渡では売り手に対して消費税が課税されます。
消費税は、事業の売却代金から非課税資産を差し引いた額に消費税率(現在10%)を掛け合わせることで算出されます。
取引の相手方である買い手は、売り手に支払う事業の譲受価額に消費税を上乗せして売り手に支払うことになります。
課税資産
「課税資産」とは、消費税の課税対象となる資産のことをさし、以下のような資産が課税資産として分類されます。
通常「在庫」と呼ばれるものです。
たとえば、商品やその商品を作るための原材料などが該当します。
代表的なものとして、「建物」、「器具備品」、「車両運搬具」、「機械装置」があります。
なお、有形固定資産のうち「土地」は非課税資産であるため、消費税計算時に除外されます。
無形固定資産とは、文字どおり実体を有さないものであり「一定の期間にわたって無形の価値を利用できる資産」を指します。
具体的には、「特許権」、「商標権」、「意匠権」、「ソフトウェア」などが該当します。
なお、以下で示す「のれん」も無形固定資産の一種ですが、他の無形固定資産と異なる側面が多いことから、別枠で記載しています。
「のれん」は「営業権」とも呼ばれ、事業の超過収益力(利益を生み出す力)を表したものです。
例えば、独自のノウハウ、顧客リスト、優良な取引先との関係性などがあります。
非課税資産
「非課税資産」とは、金銭債権(売掛金、未収入金など)土地、有価証券(株式、債権など)などの資産をいいます。
これらの非課税資産は、事業譲渡の消費税を計算する際に対象外となります。
事業譲渡における消費税の注意点
事業譲渡は取引金額が多額にわたる場合もあり、それに伴って納めるべき消費税の額も多額に上るケースがあります。
そのため事業譲渡の当事者は、事業譲渡にかかる資金計画を立てる際にその点を十分考慮しなければいけません。
したがって、事業譲渡のプロセスに入る前に、税理士などのM&A専門家に相談して、消費税額の概算金額を算出するなどを行うことが望ましいでしょう。
特に注意を要するポイントとして以下の点が挙げられます
- 消費税額は課税資産の額に連動する
- のれんに対して消費税負担が発生する
- クロージング日まで税額を確定できない場合が多々ある
- 課税売上割合が下がる可能性がある
消費税額は課税資産の額に連動する
消費税は、法人税のように譲渡損益ではなく、譲渡する課税資産に対してかかる税金です。
そのため、譲渡対象に課税資産がある限り、譲渡損益がマイナスでも課税が発生する点に留意が必要です。
のれんに対して消費税負担が発生する
のれんは「課税資産」に該当します。
そのため、買い手が独自のノウハウ、ブランド価値、顧客リストといった目に見えない資産価値を高く評価する場合には、消費税が多額にのぼる可能性があります。
クロージング日まで税額を確定できない場合が多々ある
事業譲渡にかかる消費税の正確な額は、売り手・買い手ともにクロージング日まで確定できないケースが多々あります。
典型的には、譲渡対象資産に棚卸資産が含まれているケースです。
売り手が保有する棚卸資産の数量・価値は一定ではなく、在庫状況などにより日々変動しています。
M&Aプロセスの過程で事業譲渡のクロージング時の残高を予測していても、実際の残高はその予測からかけ離れている可能性も考えられます。
特に、クロージング時点における実際の残高が予測よりも大きい場合、それに応じて消費税の額も増えることになってしまいます。
そのため、多額の棚卸資産を譲り受ける場合には、この消費税額の不確実性に注意する必要があります。
課税売上割合が下がる可能性がある
金銭債権、有価証券、土地の譲渡は、消費税上非課税取引に該当します。
譲渡対象にこれらの資産が含まれる場合、非課税売上が大きくなるため、課税売上割合(消費税が課税された売上高の占める割合)が下がることになります。
消費税は仮受消費税から仮払消費税を控除した差額を納付しますが、課税売上割合が下がると、仮払消費税のうち控除できる部分が減少するため、その分だけ納税額が多くなってしまう点に留意する必要があります。
なお、課税売上割合の計算上、金銭債権や有価証券は非課税売上として取り扱われる額が譲渡対価の5%相当額ですが、土地については譲渡対価の全額が非課税売上として取り扱われる点も気に留めておく必要があります。
まとめ
以上、いかがでしたでしょうか。
事業譲渡は大規模な取引となることも多くあり、それと連動して多額の税金が発生する場合があります。
税金の多寡によっては、事業譲渡実行の意思決定に影響を及ぼすこともあるでしょう。
したがって、繰り返しになりますが、事業譲渡のプロセスを開始した段階から「一体どれくらいの税金が発生するのか」考えておく必要がありますので、早い段階から税理士などに相談しながら進めるようにしましょう。
コメントを残す