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【事業譲渡】忘れちゃいけない、税金の話(買い手編)  

前回は事業譲渡にかかる売り手側の税金についてまとめてみました。

ということで今回は買い手側の税金についてお話をしたいと思います。

先に復習も兼ねて、事業譲渡に関係する税金の概要について、再度表を貼り付けておきます。

今回は買い手の話なので、右側を見ればいいですね。

税目売り手買い手
法人税譲渡益が発生した場合は課税される。譲渡損の場合は課税所得が減少する
消費税課税資産に対して課税される課税資産に対して課税される
消費税以外の公租公課(注1)譲渡日前日までの分が課税される 譲渡日以降の分が課税される
登録免許税譲渡対象資産に不動産や知的財産権が含まれている場合は課税される
不動産取得税譲渡対象資産に不動産が含まれている場合は課税される
印紙税(注2)事業譲渡契約書に課税される事業譲渡契約書に課税される

(注1)固定資産税、都市計画税、償却資産税など

(注2)通常は、各1通ずつ双方が負担するが、当事者いずれかが全て負担する場合もある。

実は、上表にはありませんが、買い手にとっての一番のポイントは「のれん」になります。

わかりにくくて申し訳ありませんが、上表は事業譲渡時点で税金が発生するものを列挙したため、「のれん」の記載を割愛しています。

そして「のれん」の他には、上表のとおり、消費税、登録免許税・不動産取得税というところを押さえておく必要があります。

では早速解説していきましょう。

「のれん」

「のれん」の定義

すでに別のところで解説済なのですが、重要なので「のれん」の定義について再度確認しておきましょう。

「のれん」とは

「のれん」は「営業権」とも呼ばれ、事業の超過収益力(利益を生み出す力)を表したものです。例えば、独自のノウハウ、顧客リスト、優良な取引先との関係性などがあります。

なお、通常は「のれん」が貸借対照表に計上されることはありません。

しかし、事業譲渡を行なった場合、例外的に買い手の貸借対照表上に「のれん」が計上されます。

「のれん」の計上

実は「のれん」には2種類あります。

一つは先ほどから話している「のれん」であり、もう一つは「負ののれん」と呼ばれるものです。

それぞれの貸借対照表への反映については以下の通りとなります。

どちらに該当するかの判定貸借対照表上の処理
「のれん」譲受資産・負債(時価)ー事業の取得原価=”プラス”の差額の場合左記の差額を資産として計上
「負ののれん」譲受資産・負債(時価)ー事業の取得原価=”マイナス”の差額の場合左記の差額を負債として計上(注)

(注)ただし、会計上の取扱いは異なる(後述)

なお、事業の取得原価は、「事業の売買価格」(事業譲渡契約書に記載される取引金額のことですね)に「取得に直接要した支出額」を加算したものとなります。

「のれん」「負ののれん」の償却

以下の通り、「のれん」・「負ののれん」の償却は税務と会計で扱いが異なります。

税務上の取扱い

税務上は「のれん」・「負ののれん」と呼ばず、「資産調整勘定」・「差額負債調整勘定」と呼びます。

この資産調整勘定・差額負債調整勘定は、いずれにおいても、60か月に渡って月割で償却していくことが求められます。

会計上の取扱い

会計上「のれん」については、その効果の及ぶ期間で定額法その他の合理的な方法により、最長20年間に渡って償却します。

一方「負ののれん」は、「のれん」のように減価償却するのではなく、事業譲渡を行った事業年度の「特別利益」として一括処理する点に注意が必要です。

消費税

事業譲渡において、譲り受ける資産のうち「課税資産」に対して消費税が課税されることになります。

ここもおさらいですが、課税資産と非課税資産について簡単に定義を確認しておきましょう。

課税資産

「課税資産」とは、消費税の課税対象となる資産のことをさし、以下のような資産が課税資産として分類されます。

  • 棚卸資産
  • 有形固定資産(土地を除く)
  • 無形固定資産
  • 「のれん」(非常に重要!「のれん」は消費税がかかります)

課税資産

非課税資産は、事業譲渡の消費税を計算する際に対象外となり資産であり、以下のような資産が該当します。

  • 金銭債権(売掛金、未収入金など)
  • 土地
  • 有価証券(株式、債権など)

ちなみに、消費税を税務署に納付する義務があるのは売り手側です。

買い手は、売り手に対し事業の譲受価額に消費税を上乗せして支払い、売り手はその受け取った消費税を納付をするという流れになります。

消費税にかかる注意点

買い手が事業譲渡を実行にかかる消費税について注意すべき点として、次の2点を挙げておきます。

  • 消費税が多額になる可能性がある
  • クロージング日まで消費税が確定できない場合が起こりえる

消費税が多額になる可能性がある

事業譲渡は取引金額が多額にわたる場合もあり、それに伴って納めるべき消費税の額も多額に上るケースがあります。

特に、買い手が独自のノウハウ、ブランド価値、顧客リストといった目に見えない価値を高く評価する場合、多額の「のれん」が計上される可能性があり、それに連動して消費税がかかることになる点について注意が必要です。

そのため買い手は事業譲渡にかかる資金計画を立てる際にその点を十分考慮しなければいけません。

クロージング日まで消費税が確定できない場合が起こりえる

あと、事業譲渡にかかる消費税はクロージング日まで確定できない場合が多々ある点も注意が必要です。

典型的には、譲渡対象資産に棚卸資産が含まれているケースです。

一般的に棚卸資産というものは、数量・価値は一定ではなく、在庫状況などにより日々変動するものです。

したがって、M&Aプロセスの過程で事業譲渡のクロージング時の残高を予測していても、実際の残高はその予測からかけ離れている可能性も考えられます。

特に、クロージング時点における実際の残高が予測よりも大きい場合、それに応じて消費税の額も増えることになってしまいます。

そのため、多額の棚卸資産を譲り受ける場合には、この消費税の不確実性に注意する必要があります。

不動産取得税・登録免許税

重要度は落ちますが、譲り受ける資産に土地や建物が含まれている場合、譲受け時に不動産の所有権移転登記を行う必要があります。

その際に「登録免許税」と「不動産取得税」という流通税が発生します。

登録免許税は「固定資産税評価額×2%」、不動産取得税は「固定資産税評価額×4%」で算出します。

ただ、これらの流通税については軽減税率が適用される場合もあるため、事業譲渡が軽減税率の対象となるかどうか税務の専門家に確認しましょう。

(参考)事業譲渡で譲り受けた減価償却資産の耐用年数

もう一つ参考までに、買い手が事業譲渡で減価償却資産を譲り受ける場合について触れておきたいと思います。

事業譲渡で譲り受ける減価償却資産は中古資産であるため、残りの使用可能年数を見積もって耐用年数を計算することになります。

なお、その見積もりが難しい場合は、次の算式を用いることになります。

事業譲渡時における使用年数耐用年数
法定耐用年数を超えていない場合(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
法定耐用年数を超えている場合法定耐用年数×20%

なお、上記算式に基づき計算された年数につき、1年未満の端数が生じた場合は切捨てられ、計算された年数が2年未満であった場合は2年とします。

まとめ

以上いかがでしたでしょうか。

繰り返しになりますが、ポイントは「のれん」と「消費税」になります。

事業譲渡は多額の取引となることも多いため、買い手の税金に与えるインパクトは無視できない場合が多々あります。

したがって、事業譲渡のプロセスに入る前、あるいはプロセスのなるべく早い段階から、税理士などのM&A専門家に相談して、可能な範囲でタックスプランニング(消費税の概算金額の算出など)を立てておくことが望ましいでしょう。 

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