M&Aの全体プロセスを進める際の専門家として「フィナンシャルアドバイザー(FA)」という形と「仲介」という形に大きく分けられるのはご存知でしょうか?
今回は後ろの方の仲介という形態について話をしたいと思います。FAについては別の機会でお話をしますね。
目次
そもそもM&Aにおける仲介会社って何?
ところで、そもそもM&Aにおける仲介会社というものはどのような役割を果たすのでしょうか。
ここでちょっと定義を確認してみましょう。
中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン」では次のように定義しています(定義では「仲介者/仲介契約」という用語を使っています)。
「仲介者」とは、譲り渡し側(※)・譲り受け側の双方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関をいい、一部の M&A 専門業者がこれに該当する(業務範囲は個別の支援機関ごとに異なる。)。なお、金融機関、士業等専門家や M&A プラットフォーマーにおいても仲介者と同様の業務を行う場合は、業務の性質・内容が共通する限りにおいて、仲介者として本ガイドラインの適用があるものとする。
「仲介契約」とは、仲介者が譲り渡し側(※)・譲り受け側双方との間で結ぶ契約をい い、これに基づく業務を仲介業務という。
(出所)中小M&Aガイドライン
ちょっと堅苦しい文章でわかりにくいかもしれませんが、ポイントは「売り手・買い手双方と契約して、双方に対して助言する」ということです。
仲介会社なくして中小M&Aなし
仲介会社は中小M&Aにおいてキーとなるプレイヤーであり、これからもそういう役割を荷なっていくものと思います。
わかりやすい理由として、ここで中小企業のM&A仲介を手がける上場大手3社の成約組数について見てみましょう。
(出所)平成30年版中小企業白書(中小企業庁)
もうこれは言わずもがなですね。
非常に順調に右肩上がりの推移を見せています。
そして、この右肩上がりの傾斜は最近においてより高くなっていますね。
この図表は2017年までのデータしかありませんが、ほぼ確実に2018年、2019年、そして2020年にかけてドンドンと右肩上がりの勢いを増している、あるいは維持しているでしょう。
残念ながら、これら大手3社以外の中小仲介会社のデータはありませんが、おそらく右肩上がりのトレンドを見せていることでしょう。
中小M&Aにおける仲介業務の必要性
ただ、仲介会社に対する批判がないわけじゃありません。
それは「利益相反問題」というものです。
M&Aの仲介に限らず、すべての仲介業務に共通して内在する問題です。
仲介会社は売り手・買い手双方のサポートを行うわけです。
だから売り手にとって有利なことは買い手にとって不利なこと、その逆もまた然り、ということで仲介会社のさじ加減という部分は外見上どうしても存在してしまうわけです。
しかし、こういうふうに思うんですね。
中小M&Aにおいては仲介会社というプレイヤーは欠かすことができないという事実を重視すべきということです。
理由は3つあります。
そもそも中小M&A市場というものは、仲介業務をベースに拡大してきたこと
これはまさに先ほどお伝えしたことそのままです。
それだけ仲介会社のプレゼンスがあるということは、それだけ市場から必要とされている証左なわけですよね。
中小M&Aは友好的なM&Aであること
中小M&Aにおいては敵対的M&Aと言うものは理屈の上では存在しません。
なぜなら、敵対的M&Aというものは、「上場会社、すなわち株式の流動性があって、誰でもその株を取得できるという状況で、会社の意思(厳密には、経営を委託されている取締役の意思)と反して株式を買い占め、会社経営をコントロールするためのM&A」だからです。
そういうときには、売り手と買い手の間でドンパチ戦うことになるので、売り手・買い手それぞれ一方と契約し、そのものだけのために助言するFAが必要となってくるわけです。
中小M&Aの場合はそうではなくて、売り手・買い手の経営者間で属人的にM&Aプロセスが進むケースが多いので、いわば結婚する上での仲人みたいな役割(まさに仲介人)が必要な場合も多いわけです。
その方が売り手・買い手自身もメリットがあるわけです。
うまく売り手と買い手の利害を調整してくれることを期待するわけですね。
これがFAの場合には売り手のFA、買い手のFA、と完全に分かれてしまうので、どうしても間に一種の”溝”みたいなものが存在してしまいます。
だから、その溝をなくして、より膝詰めでM&Aプロセスを進めたいという意向がある場合は仲介の方が馴染むのでしょう。
売り手・買い手の意向
これはたまに目にする話なんですが、そもそも売り手・買い手から「仲介でお願いします」と依頼してくる場合もあります。
中小企業の場合、売り手・買い手もそれほどM&Aに詳しくはないことが多いです。
だから、FAを雇うやり方があるということを知らない場合があります。
例えばですが、不動産を売買する時に売り手・買い手の間で不動産業者が1社だけ立つ(つまり、双方をサポートする)、そもそもそういうイメージでM&Aを考えている場合もあるわけですね。
その場合、M&Aというものは、FAという形で助言を受けながらM&Aプロセスを進めて、場合によってはドンパチやるというものをそもそも想定していないということになるのです。
そして、これは1と2の話とつながることでもあります。
中小M&A市場が仲介会社とともに育ってきたから、仲介を前提と考えている場合もありますし、友好的M&Aだから特にFAである必要はないという場合もあります。
利益相反問題についてはどう考えるべきか?
ちなみに、仲介に内在する問題である「利益相反」について先ほど少し触れましたが、それを当事者がデメリットと捉えないのであれば外からどうこういう話じゃないわけですよね。
ただ、1つ付け加えるとすれば、仲介会社が仲介契約を結ぶ時、売り手と買い手に対して仲介は利益相反という問題が内在しているものですよって言うことを伝えた上で合意する契約を結ぶべきだと思います。
仲介会社によってはそういうことを伝えずにとっとと契約を結んでしまいたいと思うかもしれません。
しかし、そういうリスクも含めてきちんと説明するという誠実な態度・行動をとることが、中長期的に自らの仲介会社としての評判を高めることにつながる、顧客からの信頼を勝ち得ることにつながると思います。
実際のところ、私はFAとして業務を行うことをベースにしていますけれども、顧客からの依頼があるといった場合には、仲介でサポートすることがあります。
なぜなら、それを否定する理由がありませんからね。
当然ながら、先程お話ししました利益相反の話は売り手・買い手にきちんと説明します。
そして、その問題についてしっかり頭に入れて、契約相手(つまり売り手買い手双方)の利益の最大化にできる限り誘導するように誠心誠意業務を行うというわけです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
中小M&Aの世界は仲介会社のサポート抜きには語れません。
だから、先ほど述べた問題点を後ろ向きに考えるのではなく前向きに受け止めて、どのように仲介会社として振る舞うべきなのかということを考えたら良いのかなと思います。
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