会社や事業を買いたい人でM&A専門家にその旨を伝えた方々は、「ノンネームシート(注)」を提供されたことがいくどもあるのではないでしょうか?
売り手の経営者も自分の会社や事業を売却したいと相談した場合、まず最初にM&A専門家から「まずはノンネームシートを準備しましょう。」とか、実際にM&A専門家と協働してノンネームシートを作って、買い手候補に打診をしている(した)のではないでしょうか?
というように、ノンネームシートはM&Aプロセスをスタートするための最初の手続となります。
このノンネームシートは、通常ペラ一枚の書面で準備されますが、ここではそれに加えて動画で情報を提供するということについて提案をしたいと思います。
ノンネームシートとは
M&Aプロセスの最初の段階で、売り手に対する買い手候補の初期的な関心度合いを確認するため、売り手が特定されない程度の簡易な情報をまとめた資料をいいます。
当該シートに基づき買い手候補が関心を示すと、買い手候補と売り手との間で守秘義務契約を締結し、詳細情報の開示するというステップに入っていくことになります。
目次
動画情報の有効性
まず、「映像」によるコミュニケーションが非常に有効であることを示す理由を2点お伝えしたいと思います。
この差はなんと驚くべきものではないでしょうか。
したがって、短時間で膨大な情報を伝える際に、動画は極めて有効な手段と言えるでしょう。
メラビアンの法則
メラビアンの法則は、1971年にアルバート・メラビアンによって提唱された非言語コミュニケーションの重要性を説く法則で、話し手が聞き手に与える影響は言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%の割合であり、この割合から「7-38-55のルール」とも言われています。
情報の種類 | 概要 | 相手に与える影響度 |
---|---|---|
言語情報 | 言葉そのものの意味、会話の内容 | 7% |
聴覚情報 | 声の質や大きさ、話す速さ、口調 | 38% |
視覚情報 | 見た目、しぐさ、表情、視線 | 55% |
ここからも、目や耳で受け取る情報(動画により提供される情報)がとても有効であることが強く示されています。
マッチングプロセスにおける使い方のイメージ
おそらく突然動画だけ送る、あるいはFace to face で動画を買い手候補に見せるという形は少ないのかなという風に思います。
想定される使い方は、ノンネームシートと動画を双方を利用という形ではないでしょうか。
ひとつは、ノンネームシートと簡単な動画を一緒に見てもらい、さらに検討を進めるかどうかを判断してもらうという流れです。
あるいは、つまりノンネームシートを見てもらい一定の関心を示した場合、次のステップとして買い手候補に簡単な動画を見てもらい、さらに検討を進めるかどうかを判断してもらうという流れです。
というわけで、動画を使うからと言ってノンネームシートの必要性は変わらないと思います。
動画を併用することによるメリット
ただ、動画情報もあわせて提供することにより、買い手候補の意向を確かめる上でより有効かつ効率的な手段となるわけです。
先ほど述べたように、文字情報で伝達できる情報は動画よりも大幅に少ないです。なので、二次元の説明や数字のデータだけでは買い手候補が意向を示したとしても、ぼわっとした感じになる側面が強いでしょう。
それをプラスアルファの情報を動画で補うことによって、買い手候補はその案件の特徴やフィット感というものをより明確に判断できる可能性が高まります。
だから、ノンネームシートを見せて、買い手候補がなんとなく面白そうだと感じて、守秘義務契約を締結して、追加情報を提供したり売り手と初期的な面談を行うというマッチングからトップ面談までの一連のステップをステップを精度を上げて(買い手候補を取捨選択して)進めることができるわけです。
ちなみにこの場合、買い手候補に見せる場合には、買い手候補に直接会ってそこでタブレットやノートパソコンを開いて、見てもらって買い手候補のコメントや声のトーンや表情などを伺って興味の程を確認することがより望ましいでしょう。
先方の手間やコロナ禍の状況を踏まえると、ZOOMで動画ミーティングを行いながら画面上で動画を見せることでも全然構いません。
動画情報を提供する際における注意点
動画情報の有効性は上に示したとおりですが、 M&Aのマッチングプロセスという特殊性を勘案すると次のような点に留意する必要があります。
守秘性を担保すること
マッチングプロセスの段階では、買い手候補と守秘義務契約を結んでいません。
したがって、ノンネームシートに基づきマッチングを進めるのと同様、情報の守秘性はしっかりと担保をしておく必要があります。
動画情報においては、例えば、売り手経営者の声色を変えたり、(ちょっと悪者みたいですが)モザイクをかけたり、工場や商品を見せる場合にはどの会社が特定されないように一定の工夫を行う、などの対処が必要です。
ノンネーム情報の文字情報を単に言葉に落としただけのような動画としないこと
単にノンネームシートで書かれてる情報をそのまま読み上げるだけでは何のアピールにもなりません。
売り手の経営者のトークにとどまらず、例えば商品の写真とか、現場の生の声、第三者(取引先など)の声などもちょっと含めてやるとだいぶ違うと思います。
また、中小M&Aは人vs人の要素が強いので、経営者の人間味が分かるような話し方や性格がある程度分かるような形で見せると、トップ面談を行う前に、買い手候補がその時点で次のステップに進めないかをより適切に判断できると考えられます。
ポジティブなメッセージだけでなくネガティブなメッセージも伝えること
売り手は会社や事業を売却したいわけですから、出来る限り買い手候補にアピールできるような情報を伝達したいと思うでしょう。
しかしながら、この時点で明らかに重要な論点になると思われるネガティブな情報があれば差し支えない範囲で伝えた方がいいと思います。
そのような情報はデューデリジェンスの過程などで必ず買い手候補にばれてしまう話です。
この段階で守秘性を担保しつつもネガティブ情報を適切な形で伝えると、買い手候補はマッチングプロセスの段階で合理的な判断ができますし、その結果お互いに時間の無駄となるリスク(M&Aプロセスを進めていくが、最終的に破綻となることが見えているような案件)を避けることができます。
まとめ
以上、いかがでしたでしょうか。
昨今中小M&Aの世界では、より効率的にM&Aプロセスを進める機運が高まっています。
典型的には、ここ数年で急激なスピードで新規参入がある「 M & Aマッチングサイト」があります。
M&Aプロセスはおよそこういう形で進めるべし、というものはありますが、細かい部分までそれに縛られる必要はないわけです。
時代に即してさらに有効なやり方、効率的なやり方があるのであれば、どんどん採用していけばいいと思います。
ここで挙げた内容は、あくまで一つの提案に過ぎません。
もっと色々な工夫があると思いますので、どなたかそういうものを発見したり提案して欲しいですね。
こういった面からも、今流行りのM&Aって何かワクワクする感じがしませんか?
1分間の映像には、文字情報に換算して180万文字分の情報量があると言われていること