目次
株主保護の必要性
事業譲渡によって、売り手・買い手の双方とも経営状況が大きく変わることになります。
その結果、それらの株主に予期せぬ損害を与える危険性がでてきます。
そこで、会社法は株主の保護を図るべく、事業譲渡契約書の締結時点から様々な手続を定めており、原則として下記の手続をこの順序で進めていくことが求められています。
- 取締役会決議 (事業譲渡契約書の締結の直前)
- 株主への通知・公告
- 株主総会決議
- 株式買取請求(クロージング日の前日まで)
取締役会決議
事業譲渡は売り手にとって「重要な財産の処分」にあたることが一般的であるため、事業譲渡契約を締結する前に、取締役会(注)の決議が必要となります。
買い手も同様のロジックで、事業譲渡が「重要な財産の譲り受け」に該当するため、事業譲渡契約を締結する前に、取締役会の決議が必要となります。
取締役会では、売却(取得)する事業の範囲、譲渡価額など、事業譲渡契約における重要事項について決議されます。
ちなみに、取締役会が設置されていない場合で2人以上の取締役がいる場合は、取締役の過半数の承認があれば事業譲渡契約を締結することができます。
(注)取締役会とは、株主総会で選任を受けた3人以上の取締役と監査役が構成する経営の意思決定機関です。
株主への通知・公告
事業譲渡のクロージング日より20日前までに、売り手・買い手双方の株主に「株式買取請求権」(後述)を行使する機会を与えることを目的として、事業譲渡を実施する旨を株主に通知・公告することが求められています。
ただし、事業譲渡契約の締結について株主総会で承認を受けている場合は、通知は省略することができ公告手続のみで足ります。
なお、株主総会の特別決議が必要な事業譲渡(後述)の場合は、電子公告や官報公告で広く告知し、株主に個別に郵便を送るなどして事業譲渡契約を締結したことを伝え、株主総会を招集します。
株主総会決議(売り手)
株主総会決議が必要となる場合
売り手の行う事業譲渡が次のいずれかに該当する場合は、その株主の利害に重大な影響を及ぼすため、事業譲渡のクロージング日の前日までに株主総会の特別決議(注)で承認可決を得ることが必要になります。
(注)株主総会の特別決議の条件は、議決権の過半数を有する株主が出席し、その3分の2以上が賛成することです。
・全ての事業を譲渡する場合
・事業の重要な一部を譲渡する場合
「事業の重要な一部」に該当するかどうかの判断基準
「事業の重要な一部」に該当するかどうかは、「量的側面」と「質的側面」の両面から判断されます。
量的側面とは、売上高、利益、従業員数等の諸要素を総合的にみて事業全体の10%程度を超えるかどうかという点から確認するものです。
質的側面とは、会社沿革等から会社のイメージに大きな影響を与えるかどうかという観点から確認するものです。
例外規定(株主総会決議が不要)
ただし、下記のいずれかに該当する場合においては、例外として株主総会を省略することができます。
- 「事業の一部の譲渡」で、譲渡する資産の規模が小さい場合(売り手の総資産の20%を超えない場合)
- 売り手の総資産の20%を超える事業譲渡の場合でも、「事業の重要な一部の譲渡」に該当しない場合
- 買い手が特別支配会社である場合(=買い手が売り手の議決権の90%以上を所有している場合)
株主総会決議(買い手)
株主総会決議が必要となる場合
売り手の事業の全てを譲り受ける場合は、事業譲渡のクロージング日の前日までに株主総会の特別決議で承認可決を得ることが必要になります。
例外規定(株主総会決議が不要)
ただし、下記のいずれかに該当する場合においては、例外として株主総会を省略することができます。
- 事業の全部を譲り受ける場合でも、取得対価の額が少ない場合(買い手の純資産の20%を超えない場合)
- 売り手が特別支配会社である場合(=売り手が買い手の議決権の90%以上を所有している場合)
まとめ
以上いかがでしたでしょうか。
会社法の定めといった解説は、どうしても堅苦しくならざるを得ないので、ちょっとつまらないかもしれませんがお許しください(汗)。
ここではステークホルダーの中で一番重要と言ってもいい株主に対する保護にフォーカスして整理しました。
しかしながら、M&Aは、事業譲渡に限らず、ステークホルダーに様々な形で大きな影響を与えることが多くあります。
したがって、M&Aを検討する場合には、様々なステークホルダーに与える影響を頭の片隅に入れながら、M&Aの実行の是非、どのような条件なら受け入れるべきか、といった点を慎重に判断することが必要でしょう。