事業譲渡を選択するということは、当然ながら理由があるわけですよね。
しかし一方で、事業譲渡を選択しない理由もあるわけです。
ということで、その判断を行う背景にある事業譲渡のメリットとデメリットについて簡潔に整理してみました。
まず今回は、売り手にフォーカスして話をしたいと思います。
売り手側のメリット
事業譲渡における売り手のメリットとして、主として次のようなものが挙げられます。
柔軟な取引
事業譲渡は、事業に関する財産等を個別に移転する取引(「個別承継」といいます)であるため、極めて柔軟な取引を行うことが可能です。
したがって、当事者が合意すれば、譲渡の対象とする「事業」の範囲は、自由に構成することができます。
商品や工場といった有形資産はもちろん、取引先、ブランド、ノウハウ、特許といった無形の資産や権利も、個別に定めて譲渡することができます。
事業の「選択と集中」が可能
事業譲渡によって得られた資金を、業績改善や経営の安定化を目的として利用することが可能です。
例えば、ノンコア事業や不採算事業を切り離して経営資源を中核事業に集中させたり、新規事業への投資に回したりすることが可能となります。
財務面の改善
売り手は事業譲渡によって売却収入を得ることができます。
それによって、手元資金が増強されることから、一種の資金調達といえます。
そのため、例えば、その資金で負債を返済して財政状況を改善するといったことが可能になります。
また、その後に新規で融資を受けたい場合、事業譲渡前よりも好条件で融資を受けられるといった副産物も期待できます。
ステークホルダーの保護
売り手が経営不振の場合、事業譲渡を通じて売り手は一定の現金を得ることができるので、従業員の雇用や取引先との関係を維持継続することが可能になります。
法人格の維持
事業譲渡とは、その名の通り、事業を譲渡してその売却収入を受け取る取引であり、売り手の法人格については何も変わりません(廃業などしない限りにおいて)。
つまり、事業譲渡後においても会社としての独立性が維持されることから、例えば「先代から受け継いだ会社なので譲りたくない」といった思いも叶えることができます。
売り手のデメリット
逆に、事業譲渡における売り手のデメリットとして、例えば次のようなものを挙げることができます。
競業避止義務を負う
競業避止義務とは、会社法上、事業譲渡を行った会社に課される義務です。
ただし、この規定は任意規定と解されているため、当事者間で合意すればこの条項の適用を排除することができます。
逆に、当事者の合意によって30年まで伸長することも可能です。
株式譲渡よりも税率が高い
事業譲渡によって譲渡益が発生した場合、売り手に法人税が課せられますが、その税率は株式譲渡よりも高い税率となります(税金は別途解説します)。
消費税負担の発生
消費税は譲渡する資産(正確には譲渡する資産のうち「課税資産」に該当するもの)に対してかかる税金ですので、たとえ譲渡益がマイナスでも消費税は課税されます。
まとめ
以上、主要なものをざっと述べてみました。
いかがでしたでしょうか?
上で述べたようなメリット・デメリットを総合的に考えて事業譲渡で進めるかどうかっていうことを判断するわけです。
ちなみに、当然ながら、ここで述べたようなメリットデメリットが、全ての売り手に同じように当てはまるというわけではありません。
また、同じメリットを感じていても、重要性や優先順位などは会社によって変わってくるはずです。
果てさて、あなたの会社は、事業譲渡向きでしょうか?、それとも株式譲渡向きでしょうか?、あるいはその他のスキームの方がいいのでしょうか?
ちょっと考えてみてはいかがでしょうか?
譲渡会社は、”譲渡から20年間”、“同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内”で、“譲渡をした事業と同一の事業を行うことを禁止”する(会社法21条)